ビタミンB12のお話

2024/08/01 コラム

ビタミンB12のお話

貧血の治療に鉄の摂取が有効であることは古くより知られていましたが、19世紀中ごろ、貧血のなかに鉄療法に反応しない難治性で致命的なものがあることが判明し、それらは特に「悪性貧血」と呼ばれるようになりました。

長く原因不明だった悪性貧血の治療に道が開けたのは、患者に肝臓(レバー)を食べさせると症状が著しく改善したという1927年の報告がきっかけです。

ウィリアム・P・マーフィらは、この肝臓中抗悪性貧血因子の発見によってノーベル生理学医学賞を授与(1934年)されています。

当時、患者は治療として毎日大量の肝臓を食べさせられたとのことで、命に係わるとはいえそれは過酷なものだったようです。

その後、この抗悪性貧血因子は、コバルト原子を中心に持つ複雑な構造の赤い物質として単離され、ビタミンB12と命名されました。

ビタミンB12が化学名称としてコバラミンと呼ばれている所以(コバルトをもったアミン)です。

 

 

ビタミンB12は、私たちの体内でアデノシルコバラミンやメチルコバラミンなどに形を変え、補酵素として様々な酵素の働きを助けています。

ビタミンB12はおもにDNAやRNAの合成、神経細胞の機能維持、メチオニンなどのアミノ酸の代謝に関わっています。

ビタミンB12が欠乏するとDNA合成に支障が出るため、DNA合成が盛んな分裂の激しい細胞ほど欠乏の影響を強く受けます。

 

代表的な細胞が赤血球です。

赤血球になる前の細胞である赤芽球が細胞分裂できなくなり、そのまま大きくなっていってしまいます。

その結果、正常な赤血球の数が減って、巨赤芽球性貧血になるのです。

ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血を、その他の貧血と区別して悪性貧血と呼んできました。

その他の欠乏症状としては、中枢・末梢神経に障害が生じたり、ホモシステインが蓄積して動脈硬化が促進されたりします。

 

ビタミンB12欠乏が生じる要因のひとつに、その特殊な消化吸収過程があげられます。

食事として摂取したビタミンB12は、胃から分泌される「内因子」とよばれるたんぱく質と消化管内で結合することによって、はじめて小腸末端から吸収できるようになります。

胃の全摘出手術を受けた方や、萎縮性胃炎を患った高齢者の方では、この内因子の分泌が欠乏あるいは低下します。

そのため、食事としてビタミンB12を摂取していてもまったく吸収できないか、十分に吸収することができなくなっていることがあります。

このような場合では、注射等の非経口的な方法によるビタミンB12投与を検討しなければなりません。

しかし、健康で通常の食生活を送る人では、腸内細菌がビタミンB12を生産していることや、肝臓の貯蔵量も大きいことから、欠乏症が生じる心配はまずないといわれています。

ちなみに、ビタミンB12は動物性食品、特に前述のレバーや、アサリ、カキ、サンマなどに豊富(表1)で、比較的摂取しやすい栄養素です。

 

 

ただし、植物性食品には含まれていないので、完全な菜食主義の方は、ビタミンB12の不足に気を付けておいた方がいいと思われます。

植物性食品の中では、ノリなど一部の海藻類に多く含まれていることもありますが、これは海藻の表面の細菌に由来するものと考えられています。

一方、通常の生活を送られている方にビタミンB12の過剰症の報告はこれまでありません。

前述のように、ビタミンB12が吸収されるためには胃から分泌される内因子と結合する必要があります。

たとえ過剰に摂取したとしても、内因子と結合できる量を上まわるビタミンB12は吸収されないため、過剰症が生じないと考えられています。

安心して食べましょう。

 

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