鉄分の王様だったひじき

2020/10/01 コラム

鉄分の王様だったひじき

これまで、ひじきは「鉄分の王様」とも呼ばれ、鉄分を豊富に含む食品として多く献立に利用されてきました。

ところが、2015年に文部科学省が公表した日本食品標準成分表(以下、成分表)の改訂版によると、市場に流通しているほとんどのひじきには鉄分がそれほど含まれていないことがわかりました。

 

改訂された成分表には下処理の加熱に用いる釜がステンレス製か鉄製に分けられて収載されています。

ステンレス釜を用いた場合では、ひじきは100gあたり6.2mgの鉄分を含み、鉄釜を用いた場合では、100gあたり58.2mgの鉄分を含むと記載されており、なんと釜の材質の違いで9倍以上の差があります。

つまり、鉄分の差は下処理に用いた鍋の材質の違いによるものだったのです。

以前は、鉄釜から溶け出した鉄分がひじきに吸収され、ひじきに含まれる鉄分として測定されていたというわけです。

 現在は手入れが容易で衛生的なステンレス鍋が普及し、ステンレス鍋からの鉄分の流出は鉄鍋に比べてとても少ないので、以前よりも鉄分の少ないひじきが市場に流通しています。

 

           

 

また、ひじきと同様に、加工の際に使用する器具の変化によって鉄分含量が減少した食品に、切り干し大根もあげられます。

切り干し大根もステンレス製の包丁の普及を受け、これまで記載されていた100gあたりの鉄分含量が9.7 mgから3.1mgに減少しました。

使用する器具の材質によって、食品の成分含量がこれほどまで変化するとは中々興味深いものです。

 

 

また、ひじきの加工時の加熱時間によっても鉄分量が変化するという報告もあります(1)。

この報告は、ひじきの鉄分含有量は、鉄製鍋とステンレス製鍋の両方の場合において、下処理時の加熱時間が長くなればなるほど増加するというもので、ひじきの鉄含量は使用する鍋の材質だけでなく、加熱時間も考慮する必要があるというものでした。

 

次に新たに公表される食品成分表では、ひじきの鉄分は鍋の材質だけでなく加熱時間についても分けて収載されているかもしれません。

 

 

 

 

【参考文献】

(1)ひじき加工時の加熱時間の違いによる鉄含有量の変化. 松本義信ら. 川崎医療福祉学会誌. Vol. 27, No. 1, 2017, 147-152.

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