2022/01/01 コラム
宇宙食 ~日常生活にも活かされる技術~
2021年9月15日、民間人4人がスペースX社の宇宙船で、3日間の地球周回旅行に出発しました。
いよいよ宇宙旅行も手の届くところに、といいたいところですが、数分間滞在でも数千万円だそうで、まだまだ“身近”とはならないですね。
でも、遠くない将来、「地球は青かったぜぇ~」って話題にする日がくる、そんな予感です。
どんな旅でも食事は楽しみの一つです。宇宙に特産品があるわけではありませんから、何かを食べに宇宙に行こうとはならないでしょう。
けれども、我々庶民が宇宙に行けるようになる頃、どんな食事が待っているのか、考えてみるのも楽しいです。
さて、みなさんは宇宙食が我々の日常にも役立っていることを知っていましたか?ここでは宇宙食と我々日常生活との意外な接点について紹介したいと思います。
宇宙食には、宇宙で食べるからこその様々な制限があります。無重量空間であること、また、宇宙空間で大変貴重な空気が宇宙船内にしかないことを想像してみてください。
こぼれた液体は床に落ちるわけではなく、宇宙船内部を浮遊します。
機材と接触すると故障の原因にもなります。
そのため、液体を含む食品は飛び散らないように、パッケージからストローなどで食べられるように工夫され、あるいは、そのまま食べる食品にはとろみが付けてあります。
また貴重な空気を汚さないためには、微粉が発生しても困りますし、くさいものも避けなければなりません。
容器・包装が燃えても困ります。
たとえ燃えても有害なガスが発生しないことも条件になります。
その他にも、常温で長期保存できることや、食中毒防止の観点から高い衛生性も求められます。
当然のことながら、栄養面でも要求レベルを満足しなければなりません。
宇宙空間では骨や筋肉が退化(減少)するといわれています。
そのため、長期滞在する宇宙飛行士を栄養面でサポートするため、例えば、カルシウムやビタミンDが多く含まれています。
いずれの条件も、宇宙食ならでは求められるものなのですが、実は身近なところにも役立っているものがあります。
栄養要求レベルを満足しているだけでなく、食器を使わず食べられること、電気や水が制限される状況でも食べられること、長期保存できることなどが、災害食に求められることとの一致性が高いのです。
そのため、宇宙食のノウハウを災害食に活かす検討が進められています。
すでに一般向けに提供されているものもあります。
また、高い衛生性を確保して製造する技術は、日常食べる食品の製造に活かされています。
その技術のことを、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point:ハサップ)といいます。
HACCPとは、「食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法」のことです。
2021年6月から食品製造に関わる事業者に原則として要求されることになりました。
この技術は、アポロ計画の際に宇宙食製造のために開発された技術ですから、60年近くを経て日本の法律に組み込まれることになったのです。
このように、宇宙食のノウハウや技術は我々の日常生活にも役立っているのです。
さて、今回は宇宙食について紹介させていただきました。宇宙食を“旅先”で食べる日はまだ先のことかもしれません。
でも、生活に大変役立っていることを知っていただくと、少し身近に感じていただけるかもしれませんね。
【参考文献等】
- 宇宙航空研究開発機構(JAXA)ホームページ https://humans-in-space.jaxa.jp/
- 田島眞:宇宙食 人間は宇宙で何を食べてきたのか(共立出版)
- 日向なつお:宇宙めし!(1)(小学館)
- 厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html
- 中沢孝:宇宙食の現状と災害食への活用、科学技術動向144, p.15-23(2014)
- 防災情報新聞:https://www.bosaijoho.net/