2022/11/01 コラム
子どもの健康とエコチル調査
エコチル調査という言葉をお聞きになられたことはありますか?
図1は、学校保健統計の結果から作成した、喘息に罹った園児・児童・生徒の割合の推移を示したものです。
近年は横ばい、あるいは多少減少傾向を示していますが、平成25年頃までは明らかな上昇傾向を示しています。
このようなアレルギー性疾患の増加が環境中の様々な化学物質等の影響を受けているのではないかと懸念されていますが、詳細は明らかになっていません。
エコチル調査は、正式には「子どもの健康と環境に関する全国調査」といいます。
これは、環境省が平成22年度から実施している全国プロジェクトで、環境中の有害物質や生活環境等が子どもの健康や成長に与える影響について調べる調査です。
子どもの健康に影響を与える環境要因を明確にすることで、子どもの健康と良好な子育て環境を確保するとともに、次の世代の子ども達の健康を守る環境政策等を政策立案することが可能となります。
この国家的プロジェクトは、10万組の母子を対象にして、胎児期から子どもが13歳になるまでの期間追跡し、その間に母子の毛髪や血液、臍帯血、母乳等の生体試料を採取し保存するとともに、健康調査や定期的な質問票調査を行い、妊婦あるいは子どもの成長過程におけるデータを収集します。
これらの試料分析や質問票調査等のデータ解析を行って、妊婦や出産後の母子の健康への環境要因の関与を検討します。
組織的には、環境省が主導して計画を立て、国立環境研究所がコアセンターとして、試料分析やデータ解析、全体の統括を担い、国立成育医療研究センターが医学的なサポートをするメディカルサポートセンターとして活動しています。
また、全国15地域にある大学等が拠点となって、ユニットセンターが設けられています。
これらのユニットセンターが、プロジェクトへ参加する妊婦の募集や、子どもが13歳になるまでの追跡調査の役割を担っています。
平成26年3月に妊婦の参加者が10万人に達し、現在もデータの蓄積が継続中ですが、今までに得られたデータから多くの論文が公表されています。
最近発表された論文の中には、妊婦自身が喫煙したり、あるいは毎日受動喫煙すると、1歳時点での子どもの喘鳴(呼吸時に発生する「ゼーゼー」、「ヒューヒュー」といった呼吸音)や喘息発症のリスクが増加し、出生した子どもが受動喫煙した場合には、喘鳴のリスクが増加する可能性があることを指摘したものがあります1)。
また別の論文では、妊娠中の野菜の摂取量や野菜関連の栄養素の摂取量と、子どもの1歳時点での喘鳴、喘息、湿疹、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーの発症リスクとの関連を検討しています。
これは妊娠中に摂取した野菜の抗酸化作用や抗炎症作用によるアレルギー性疾患への効果を期待したものですが、結果として、ほぼすべての疾患に対して有意な関連性は認められませんでした2)。
これらの報告は、更なる研究によって確認していく必要がありますが、子どもの健康を考える場合、様々な環境要因の関与を考慮する必要があることを示しています。
少子化が進む日本では、ここ数年の年間出生数は80万人台となっています。生まれてきた子どもが健やかに成長できる環境を整え、その環境を次世代に継承していくことが我々の責務であり、少子化対策の一方策にもなると考えます。
このような観点から、このエコチル調査は重要であり、その結果を政策等に活かしてほしいと思います。
エコチル調査に関心を持たれた方は、ぜひ環境省のエコチル調査のサイト(https://www.env.go.jp/chemi/ceh/)等をご覧になってください。
【参考文献】
1)Wada T, et al. Maternal exposure to smoking and infant’s wheeze and asthma: Japan Environment and Children’s Study. Allergology International 2021;70:445-451.
2)Ogawa K, et al. Association between maternal vegetable intake during pregnancy and allergy in offspring: Japan Environment and Children’s Study. PLOS ONE 2021;16:e0245782.