2023/05/01 コラム
ニンジンとオランダ ~色にまつわる話題~
我々が日頃、目にするニンジンは五寸ニンジンといい、鮮やかなオレンジ色をしています。
五寸ニンジンの他に、ミニキャロット、おせち料理でよく使われる京ニンジン(金時ニンジン)、黄色ニンジンや沖縄の島ニンジンなど、国内だけでもニンジンの種類は多くあります。
色も多彩で、オレンジ、黄、紫や京ニンジンの赤も馴染みのある色です。
この色の違いは色素の種類と量の違いによって生じています。
α-カロテンとβ-カロテンの他には、黄色ではルテインやゼアキサンチン、赤ではリコペンというカロテノイドが多く含まれています。
ちなみに、紫色のニンジンでは、アントシアニンを多く含んでいます。
ニンジンは中央アジア、アフガニスタンが原産と言われており、その後、東アジアと欧州へと分かれて広まりをみせたそうです。
欧州に広まったニンジンは、当初、白、あるいは、黄色だったとのこと。
さて、オレンジ色のニンジンについて、その誕生にはオランダ王室との深い関りを示す云い伝えがあることはご存知でしょうか。
オランダの国旗は、上から、赤、白、青の三色旗ですが、当初はオレンジ、白、青でした。
オレンジ色は、オランダの独立をかけた80年戦争(1568年~1648年)で蜂起の先頭に立ったオラニエ公の紋章の色で、オランダ王室に関する祝日には、オレンジ色のペナントと一緒に国旗が掲げられるほど、オランダ国民に大切にされてきた色なのです。
このオランダとオレンジ色のニンジンに纏わる云い伝えですが、オランダ王室への敬意の印として、オランダ農民が品種改良によって誕生させたという話なのです。
この云い伝えについては、オランダの独立よりも前にオレンジ色のニンジンが存在していたことから、今ではオレンジ色のニンジンがオランダ独立よりも先にあったとする考えが、一般に受け入れられているようです。
ただ、オレンジ色のニンジンが王室に捧げられたこと、また、オランダ農民によって栽培されるようになったこと、そして、ヨーロッパ各地に広まりをみせることになったことから、世界的に広まる切っ掛けにはオランダ農民が寄与していたことは間違いないようです。
いずれにせよ、オレンジ色のニンジンの誕生とオランダ王室との関わりを示す物語は、オランダの人たちにオレンジ色が深く愛されていることを知ることのできる云い伝えです。
なお、西洋ニンジンが日本に伝わったのは江戸時代で、広く食されるようになったのは明治になってからだそうです。
食卓に彩を添えてくれるニンジンですが、その色の起源について、興味を持ってもらえたらうれしいです。
【参考文献等】
1) 食生活研究, vol.42, p.363-368, 2022
2) 品目別・野菜の栄養と機能性,ニンジン,機能性野菜の教科書,誠文堂新光社,66-67,2020
3) カラー図鑑野菜の秘密,西村書店,104-105,2021
4) オランダの国旗と紋章、オランダ大使館HP https://www.orandatowatashi.nl/about/kokki-to-monshou
5) Are carrots orange because of a Dutch revolutionary?, Live Science HP https://www.livescience.com/why-are-carrots-orange.html