2023/03/01 コラム
お母さん予備軍と「葉酸」
「葉酸」というビタミンをご存じですか?
ビタミンと言えば「ビタミン〇」という名前のものが多いので、一見ビタミンらしくありませんが、葉酸は8種類あるビタミンB群のうちのひとつです。
なぜこのような名前が付いたかというと、もともとほうれん草の“葉”から葉酸が抽出されたことから、このような呼ばれ方になったのです。
葉酸には様々なはたらきがありますが、おもには遺伝情報をつかさどるDNAやRNAの合成に必要な成分をつくる酵素の補酵素としてはたらいています。
からだの細胞が分裂する前にはかならずDNAが複製されるので、分裂が激しい細胞ほどDNAの合成が盛んです。
葉酸欠乏ではDNA合成に支障が出るため、細胞分裂が激しい組織や細胞ほど欠乏症状が出やすくなります。
代表的な細胞が赤血球です。
葉酸欠乏では、赤血球になる前の細胞である赤芽球が細胞分裂できなくなって、そのまま赤芽球細胞が大きくなってしまいます。
その結果、正常な赤血球の数も減ってしまい、貧血となります。
これを巨赤芽球性貧血といいます。
通常の食事をしていて葉酸が欠乏することはめったにありませんが、大量の飲酒をする人や、葉酸の吸収や代謝に影響するような薬剤を服用している人では欠乏しやすくなることが知られています。
葉酸は、妊娠期に欠かせない栄養素としても有名です。
妊娠初期に葉酸が不足すると、胎児に神経管閉鎖障害という先天異常が発症するリスクが高くなります。
神経管は、脳や脊髄など、中枢神経系のもとになる細胞の集まりで、通常は受胎後約28日で閉鎖します。
この神経管の閉鎖に障害が発生すると、運動や感覚機能に麻痺が生じる二分脊椎や、脳が形成不全となる無脳症になることがあります。
神経管閉鎖障害のリスクを減らすため、妊娠を計画している女性や妊娠の可能性がある女性、妊娠初期の妊婦には、葉酸をプテロイルモノグタミン酸(サプリメントや強化食品に含まれる狭義の葉酸)として一日400 µg摂取することが望まれています。
一方、葉酸にはホモシステインというアミノ酸をメチオニンというアミノ酸に変換する酵素の補酵素としてのはたらきもあります。
葉酸が不足すると、メチオニンへの転換が低下し、血液中のホモシステインの濃度があがります。
この状態が続くと、血管が傷害されて動脈硬化が促進するということがわかってきました。
葉酸摂取による血中ホモシステイン値の低下が、虚血性心疾患等の循環器疾患の予防につながるかもしれないと期待されています。
ちなみに、葉酸は、名前の由来通り、ほうれん草やモロヘイヤ、春菊などの緑の葉野菜に豊富です(表1)。
ほかには、ブロッコリー、アスパラガス、豆類、動物性食品ではレバーなどからも多く摂取することができます。
「日本人の食事摂取基準(2022年版)」では、成人の男女とも葉酸の推奨量は一日240 µgとされています(表2)。
これまで、通常の食事からの葉酸摂取で過剰症の報告はありません。
ただし、プテロイルモノグタミン酸(狭義の葉酸)の摂取では過剰症が報告されているため、通常の食品以外の食品に含まれる狭義の葉酸には耐用上限量(成人では18~19歳と65歳以上で900 µg、30~64歳で1000 µg)が設けられています。
サプリメントやビタミン剤などによる葉酸の摂りすぎには気を付けましょう。