2019/06/01 コラム
ことわざや故事には役に立つ教訓や戒めが多いのですが、『小さく生んで大きく育てよ』はどうも間違いのようです
日本では「低出生体重児(体重2,500 g未満で生まれた赤ちゃん)」が増加しています。
ふたご以上の妊娠や高齢出産の増加、女性喫煙率の上昇などいくつかの理由が考えられていますが、「体型を保ちたい」あるいは「体重を出産前に戻せるか不安」と考える女性が食事量を抑えてしまうということも一因のようです。
低出生体重児が増加する傾向の中で、DOHaD (Developmental Origins of Health and Disease)という考え方が注目されています。これは、「将来の健康や病気へのかかりやすさは、胎児期の環境の影響を受けて決まる」というものです。
胎児は、お母さんのお腹の中の環境をもとに生まれた後の環境を予測し、それに適応した体質となって生まれてくると言われています。これを予測適応反応というのですが、その体質が実際に生まれた後の環境に適応するかどうかが、将来の健康や疾病のリスクに関わっているとされています。
例えば、食事量が少ないお母さんのお腹の中で低栄養状態にさらされた胎児は、低栄養環境に適応し、少ないエネルギーを効率よく利用して体に貯められる体質となって生まれてきます。そのようなエネルギー節約型の人にとって、生後の栄養状態が良好だった場合、相対的に過剰栄養になりやすく、肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病になるリスクが高くなってしまうと考えられています。
近年の研究により、栄養状態やストレスなどの要因が遺伝子の後天的な変化(化学修飾)を胎児にもたらし、そのような体質がかたちづくられているらしいということも少しずつわかってきました。
では低栄養にならないように、とにかくたくさん食べればよいかといえば、やはりそうではありません。太りすぎは、難産や妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病などのリスクを増大させるでしょう。
厚生労働省「妊産婦のための食生活指針」(注1)では、妊娠前に体格の指数であるBMI(注2)が18.5未満(やせ)の人には妊娠全期間を通して9~12kgの体重増加が推奨されています。同様に、BMI 18.5~25.0未満(ふつう)の人には7~12kgの体重増加が推奨されています(BMIが18.5に近い人は上限、25.0に近い人は下限が目安)。さらに、BMIが25.0をやや超える程度の人はおおよそ5kgの増加を目安とし、25.0を著しく超える場合には臨床的に個別対応をとることが求められています。
お母さん自身の健康はもちろん、子どもの将来の健康のためにも、適切な体重とそれに見合った食事量には気を配りたいものですね。
注1:https://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/h0201-3a.html
注2:BMI(Body Mass Index);体重(kg)/身長(m)2